91 樹齢教の旅(6)鳥海山麓のブナ

松尾芭蕉が奥の細道の旅に出たのは元禄2年の春。松島から奥羽の山を横断し、月山(『雲の峰幾つ崩れて月の山』)を訪れ、酒田(『暑き日を海に入れたり最上川』)を経て、松島とともに憧れていた歌枕の地、象潟に到着したのは、夏8月3日でした。芭蕉は『象潟や雨に西施がねぶの花』とロマンチックに詠んでいます。

 

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山形県酒田市でレンタカーを借りて、日本海を眺めながら北へ。約1時間で象潟に。ここから右折して20分ほどの、鳥海山山麓の、中島台にあるブナ林を目指します。月山でも鳥海山でも、東北のブナ林は標高数百メートルあたりから始まります。
ブナが日本列島に現れ始めたのは約30万年前。氷河期が終わった1万年前頃から東北を中心に、急速に日本全土に分布を広げました。

中島台の入り口には、立派な駐車場がありました。が、朝からの小雨で人影もなく静かです。三脚を持って、西日本のブナ林と違って、ササや低木がない、歩きやすい小道をたどると、ブナ、ミズナラ、カエデが次々に現れます。大きい! 雨で湿った重い空気の中で、幹が黒く光って、怖いほどの迫力。あちこちで写真を撮りながら、ヤマアジサイが咲いている林の中を歩いて行くと、大きな泉が現れました。その側にこのブナの大木はありました。

胸高直径は約1.7m、高い枝は老齢のためか、枯れ落ちようとしていました。 ”あがりこ” と呼ばれる姿に驚きます。”あがりこ” は薪炭などの用のため、枝を切り、切り跡から萌える枝を再び切り、-----を繰り返してできた、ブナがつくる異様な形です。それをきっと何百年と繰り返してきたのでしょう。人と自然がつくってきた樹齢です。
しーんと静まりかえった、降ったり止んだりする小雨の中で、霧の中に見え隠れするブナの姿はそれは怖いほど幻想的でした。

駐車場に戻ると、これからブナを見に行く地元の人に会いました。「熊は?新しい爪痕があったでしょう!」。ええー熊がいたのか!
象潟には神宮皇后を祀る干満珠寺があります。はて、象潟に神宮皇后は来たかな、と芭蕉も不思議がっています。干満の珠は、先頃ご紹介したばかりのお話で、そして、象潟を通って中島台に行ったのは、数年前の、やはり雨が降る8月3日でした。何という偶然!

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